第31話

呉羽を抱いて理解したのは、




やっぱり俺は、どこかで譲れないものがあると言うこと。




温かいものに触れて、やっぱり俺の心の奥が黒に染まっていると、理解した。





暴き出されたくないことを、暴き出してしまった。




自分の心の冷たさと、


呉羽の温かさに、




その温度の格差に、愕然と、した。






俺はやっぱり、正しい歴史しか、望んでいないって。



再確認した。






温かいものに流されるわけにはいかない。



絶対に。





大塔宮様の首が落ちるまでは、少なくとも。






そうしなければ俺が今まで抱えてきた黒の意味が、赤く染まった手の意味が、無くなる。



俺の手で散らした命の意味が、無くなる。




そういうこと、思い出させてくれた。



ありがとう、呉羽。






だから俺はまた一歩、前に出る。







「・・・全員・・・?!」



「はい、全員」





にっこり微笑む。


隙のない笑顔を湛える。





「ほ、北条家の残党でさえ、私はそこまでしなかったぞ?!!」



「ええ、主上の功徳の致すところでございます」





この後、その北条がまた後醍醐帝の首を絞めていくけれど。



詰めが甘いんだよ、と言う声を、言葉の裏に込めながら、笑う。






「北条でさえ、そこまでしなかったのだ・・・それなのに、護良に?!!あれは・・・あれは・・・」






「私の子、とでもおっしゃるのですか?」






後醍醐帝の声に被せてそう言い放つ。







「見捨てた、はずなのに」







容赦なく、追い詰めていく。



逃げ場を、与えないように。





「そ、それは・・・」




「いつかまた、牙を向きますよ。今回の処置、不満に思っている側近たちも多いでしょう。確かに大塔宮様は鎌倉ですが、側近たちがこの後、主上に喰らい付くかもしれません。それでも、いいと?」






この人も、自分の罪を理解しなければ。


そうさせているのは、俺だけれど。





後醍醐帝は戸惑ったように瞳を揺らしていたけれど、しばらくして意を決したように口を開く。

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