共に。

第25話

静寂が、耳に痛い。




どこか張り詰めた空気は、私の耳の奥から脳まで壊していく。



容赦なく、ぶち壊すように。




「姫?」


「は、はい」



直義様に呼ばれて慌てて顔を上げる。


上げた先には、お坊さんが立っていた。



少し年を召された方で恐らくこのお寺のご住職なのだと思う。




「ほ?」




私の顔を見て、首を傾げる。



「ほ?ほ?」



じろじろと顔を近づけて見つめてくるそのまん丸の瞳に、たじろぎながら一歩引く。



「・・・ご、ご住職?」



直義様も困惑したように、声を揺らす。


どうしたものかとでも言うように眉を歪めていた。




「住職、この御方は・・・」




隣りにいた若いお坊さんも私を見て声を揺らす。



え?と思っていると、ご住職はにっこり笑った。





「ほ!なるほど、美しい姫君だのう。わしがもう少し若かったらのう!」





ええ?!と思って拍子抜けする。


隣りのお坊さんも「ですねー!」などと言って、顔を見合わせて笑っている。


直義様は肩を落として溜息を吐いていた。




「大塔宮様の、ご寵姫様とな」


「は、はい」



調子を崩されて、少し声が揺れる。





「ここまで追いかけてくるとは、驚いた」





ご住職はふっと笑った。


今までのおちゃらけた感じがなくなる。




思わず、瞳に力を入れて見据える。





「そんな瞳をしなくても、安心するがよい。大塔宮様を悪いようにはせん。わしたちは、な」




わしたちは。



このお寺の人たちは。


それだけでも本当に大きい。




少なからず味方だと言ってくれたこと、大きい。



しかも、直義様の前で言ってくれたこと。



にこりと笑う。





「ありがとうございます」





笑顔になった私を見て、ご住職はまた「ほ、ほ、」と言って笑っていた。


そうして踵を返して、歩いていく。





「こちらだ。姫」






こくりと頷いて、お寺に上がる。



踏みしめるたびに悲鳴を上げる床板が、また切なさを増殖する。



苦しくて、体の奥からばらばらになりそう。



いくつも棟を越えて、また外に出る。




大きなお寺だ。


離れも沢山ある。



広い。



ここがいつか神社になるのかしら。




700年後に?

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