第20話
直義様の屋敷に入って、すでに四日過ぎている。
「・・・雛鶴姫、何か食べたほうがいい」
その言葉に首を横に振る。
宗忠さんが、そんな私を見て溜息を吐いた。
ごめんね、と思いながらその姿を横目に見る。
四日、何も食べていない。
水だけ。
安易なストライキだとは思うけれど、これくらいしか私にできることはない。
くらりと世界が歪む。
あ、と思うけれど、意識の端にしがみつく。
貧血も、酷いわと淡々と思う。
「このままでは死んでしまう」
宗忠さんが、いいかげんにしてくれと、叫んだ。
叫んでくれたけれど、まるで自分に訴えている言葉とは思えない。
何だか、御簾一枚向こうの世界をぼんやりと見ているかのよう。
そんなことを思っていると、光が瞬時に満ちた。
はっとして顔を上げると、御簾を上げてこちらを見ている人がいた。
「・・・お支度を。雛鶴姫」
突然降ったその言葉が一瞬理解できなくなる。
眉を震わせた私を見て、直義様はもう一度口を開いた。
「・・・貴女様には負けました。大塔宮様の居場所、お教えいたしましょう」
はっと息を吸い込む。
そうして息を止めた途端、ぼろぼろと両目から涙が散った。
泣きたくなど、なかったのに。
「四日も何も食べないなどと・・・何て無茶をする・・・。少し何か食べなさい。今義博に用意させているから」
そう言った直義様の声が、余りに優しくてさらに涙が溢れた。
少し冷たい人かと思っていたけれど。
コクリと頷いた私を見て、直義様は一度頷く。
「大和の姉上なのだしな。芯の強い見事な御方だ。食べたらすぐにでも参りましょう」
にこりと、笑ってくれた。
ようやく、会える。
その笑顔に、また涙が増した。
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