第18話

「・・・お会いできて、嬉しくございます。雛鶴と申します」




にこりと笑ってそう言っても、返事が何も返ってこない。



ぽかんとその人は私を見つめている。


似ていると、驚いているのかもしれない。




瞳だけ動かして、それこそ間抜けに見ている。



さすがに宗忠さんは突っ込まないけれど。




「・・・直義様?」




どうしましたか?と、声を上げると、その肩が小さく震えて、正気を取り戻したみたいだった。



慌てて、口をつぐんで私を見据える。





「も、申し訳ない。少し驚いただけです」





揺れたその声を聞きながら、じっとその姿を見つめる。




思っていたよりも全然若い。





でも彼よりも2、3程上だと思うけれど。




二十代後半だろう。



すっと通った鼻筋や、切れ長な瞳がとても素敵な人だと思う。


女の人にもてそうだなとも。





こんな若い人が、足利家を支えている。





恐らく足利尊氏さんも、この人のお兄さんなのだから、同じくらい若いのだと思う。





にこりと笑ってみると、直義様はまたぽかんと私を見ていた。






「お願いがあって参りました」



「え?」





直義様は、瞳を揺らして私を見据えた。







「私の主人が、この鎌倉に配流になっております」





「姫、それは・・・」






直義さんが、声を上げて私の言葉を遮る。


けれどまた構わずに声を上げる。





「今現在の主人の居場所をお教えくださいませ」






どこにいるか。


直義さんが、困ったように瞳を歪める。




「お教え、くださいませ」



「姫、それはできませぬ」




「なぜ?」





その答えは予期していたもの。


別に揺らぐ必要はない。




にこりと笑って見せた私を見て、直義さんは一度額を掻いた。





「なぜ、などと、姫君が配流中の夫を追ってくるなどと聞いたことがありません。配流という意味がどういう意味かご存知ですか?」




「どういう意味でございます」







「罪人が受ける罰です」








その言葉に、ぐっと拳を握る。



笑顔のままで。





彼が、罪人ですって?!と怒鳴りつけたいのを、何とか押さえつけながら。

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