罪人

第17話

優美で雅なキンノクニ。


それとは対照に、ここは庭一つ見ても、侘しい。




質素や簡素を重んじた、武士たちの都、鎌倉。




間違いなく、銀色。



ギンノクニ。






「雛鶴姫、顔が間抜けだ」





不意にそんな声が聞こえて、ギロリとその声の主を睨み付ける。



やっぱりにこにこと胡散臭い笑みを湛えていたけれど。




「ちょっと、寂しさに浸ってたのよ」




うるさいわね、と抗うと、宗忠さんはさらに笑う。




「寂しい?」



「・・・鎌倉は、ね」





いろいろなことを思い出すから。


そして、未来への不安もあるから。




思えばこの時代に来て、いろいろな土地を転々としてきた。



十津川から始まって、河内、京、但馬、



そして鎌倉。





ここが最後の地になるかもしれないと思って寂しく、なる。






「月子、直義様がいらっしゃっている」






不意に廊下から、八束さんのそんな声が聞こえた。



それを合図にして、頭を下げる。





足利、直義。



今まで一度もその顔を拝見したことなどない。


もちろん、尊氏様も。





彼の対極にいる人だとしか認識がない。



彼の、敵だとしか。






誰かがひれ伏した私の前に、座った音がした。



声が掛かるまで、一度ぐっと目を閉じて、待つ。





私は鎌倉まで来たけれど、この人がどう出るかによってまた事態が変わってくる。





どうにかして、彼の居場所を知らなければ。



そうして、私が傍にいることを許してもらわなければ。






「・・・義博、宗忠、よく戻った。遠路はるばるご苦労」




「はっ!」


「ははっ!!」





まず伸びた声はそんな声だった。



少し低くて重みのある声。



けれど、聞いていて心地いいような、不思議な声。






「雛鶴姫、どうぞお顔をお上げ下さい」






そんな声が聞こえて、一度胸の内で頷く。



覚悟はきまっていると思って。





すっと、顔を上げる。



伏せた瞳を、徐々に開けながら。





光が差し込むのを感じながら、煌きの奥に見えたその人を、じっと見つめる。

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