第16話
箱根を越えたら、鎌倉なんてすぐだった。
馬を駆ったせいもあるけれど、思っていたよりも大分早く着いた。
鎌倉も、雪が落ちている。
白銀に染まって、儚さに満ちている。
寂しさが、満ちている。
銀色の国。
この国は、京に比べて簡素。
まるで正反対。
「・・・姫はどこかおかしいな」
ぼそりと呟く声がして、はっと顔を上げると、宗忠さんが少し笑っていた。
「おかしい?」
「不思議な女だ。ここまで追いかけてくるなんて、どこかおかしいとしか思えない。山を越えて川を越えてよくここまで来れたな」
「何それ。誉めてるの?けなしてるの?」
そう言うと、宗忠さんは少し考えながら笑った。
「けなしてるな」
意地悪ね、と思いながらも笑う。
「嘘だ。誉めている」
「ありがとう」
くすくすと笑ってその背を追う。
木の枝に雪が乗っているのを見ながら、鎌倉の道をゆるゆると行く。
この空の下に彼がいるんだと思うと、早く会いたくて切なさに呑まれてしまいそうになるけれど。
「月子、来い」
「え?」
突然八束さんが道の向こうから顔を出して私を呼ぶ。
少し前から、先に行くとだけ言い残して姿を消していた。
「直義様がお会いすると」
はっと息を呑む。
呑むけれど、前を見据える。
一度深呼吸をして、足を一歩前に出す。
じりっと。
「参ります」
少し強くそう言って、歩きだした。
鎌倉の道を、この銀色の道を、踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます