第15話

ぼたぼたと雪が落ちている。



吐く息も白い。



大井川、手越や富士のほうだって、雪が降っていなかったのに、ここに来て一気に泣き出すように雪が降ってきていた。





白い、白銀の道が伸びている。





きらきら煌いて、光を投げかけているけれど、



この道は、どこか寂しい。




どこか、苦しい。






「ここで泊まって、明日鎌倉入りだな」





八束さんが私の寂しさを拭うように、笑ってそう言った。


こくりと頷いて笑う。





明日。




明日、鎌倉。






あの始まりの場所へ戻る。





目を閉じれば、喧騒が、聞こえてきそう。



あのざわざわとした、夏の蝉の声や、校庭ではしゃぐ小学生の声。



アスファルトの焼ける匂いや、




車の排気ガスの匂い。





ここに来て三年も経つけれど、今も尚、鮮明にこの身を侵食している。






そっと瞳を開けた。






「明日、鎌倉に入ったら・・・」




「あ?」


「え?」





二人が訝しげに私を見つめる。







「まず、足利直義様に会わせて」








息を呑む音がして、二人とも驚いた顔をしている。


何を言っているんだという声が、聞こえてきそう。



じっと、二人を見つめてもう一度口を開く。






「直義様に会わせて」







まずこの人に会わなければ。




彼の身柄を管理している人。



彼の命を実質的に握っている人。





この人に会わなきゃ、何も始まらない。






そんな気がする。






「た、直義様・・・に?」





宗忠さんの声が揺れている。



「や、やめておけ、月子はそのまま大塔宮様の元へ」




「どこにいるかわからないわ」





彼が今どこにいるのかすら、私には全くわからない。



けれど直義様ならば知っている。





それに追いかけてきた私を、易々と彼の元へ案内なんてしないだろうと思う。



何とかして、私が彼の傍にいられるように画策しなければ。






「直義様に会わせて」







はっきりと言い切って、引かない私を見て、二人は顔を見合わせてしばらく呆然としていた。

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