鎌倉入り

第13話

「何川?」




尋ねると、宗忠さんが笑った。




「大井川です。知らなかったのですか」





おおいがわ。



何か聞いたことがあるわ。




歴史の授業で習ったことがあるような気がする。





越すに越されぬ大井川。




ああ、確かこんな感じ。




周りに何もないせいか、風が強い。


耳元で唸っている。



髪を舞い上げて世界を侵食していく。





「まあ、よかったじゃねえか」





八束さんが隣りで笑って言った。




「本当によかった・・・」





「なかなかつまらないです。また雛鶴姫のへっぴり腰が見れると思ったのに」



「宗忠さん!!」





声を荒げると、宗忠さんは楽しそうに笑って駆けていく。



ここ数日、宗忠さんの言動が私に容赦なくなってきたような気がする。




砂利道を下って、大きい石やら小さい石が一面埋め尽くしている川へと向かって。



それに足を取られて、私もよたよたと走りながら行く。





干上がった、大井川を。






「ははっ!ありがたいことだ。冬場はどうやら時折干上がるらしい。運がいいな」





八束さんも無邪気に笑って大井川を駆けて渡る。



途中石の上で滑って転びそうになったのを見て、笑う。




「水があれば、絶対に雛鶴姫は越せなかっただろう!」



「少しくらい助けてよ!!」





「嫌だね!!」





宗忠さんは笑って駆けていく。



どんどん先に。




最近宗忠さんは私に敬語を使わなくなった。



正直、敬語はやっぱり苦手だからとても嬉しい。




ただ、さらに棘のあるものになったような気がするけれど。







大井川を越えて、さらに東へ行く。




手越というところを越えた辺りで、また大きな川に出た。



ここも干上がっていて、少し水は残っていたけれど、難なく渡れる。




「富士だ」





宗忠さんがぼそりと呟いた声で、顔を上げる。



あ、と思ったら、山の間に白い雪。




青い山。

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