第12話
「何だ、こっちに住んでいたことがあるのか?」
八束さんがそう言ったのを聞いて、ひやりとする。
しまった、と思って。
「あ、ははっっ。やだ、絵で見たことがあるのよ、絵で」
「そこを間違えますか?呆れました」
「絵ってな・・・」
おかしな女だと思われたと思う。
ああ、と思って自己嫌悪に陥る。
消えない、現代の影。
ふとした拍子に色濃く発色する。
「今は噴火しちゃいないからいいが、してたら大変だったろうな」
「富士はいつそうなるかわからないからな」
二人が笑いながら話しているのを、後ろを歩きながら聞く。
数日で、もう、ここまで来た。
八束さんや宗忠さんが頑張ってくれたお陰で。
歩いてくるよりも全然早い。
あと四本も川を越えないといけないけれど。
もう、ここまで。
富士山が見える場所まで来た。
鎌倉まで、あと少し。
彼の元まで、あとほんの少し。
二人に隠れて、そっと涙を拭う。
日の光に貫かれて、白銀に煌いて散って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます