第12話

「何だ、こっちに住んでいたことがあるのか?」






八束さんがそう言ったのを聞いて、ひやりとする。



しまった、と思って。





「あ、ははっっ。やだ、絵で見たことがあるのよ、絵で」




「そこを間違えますか?呆れました」



「絵ってな・・・」





おかしな女だと思われたと思う。



ああ、と思って自己嫌悪に陥る。





消えない、現代の影。



ふとした拍子に色濃く発色する。






「今は噴火しちゃいないからいいが、してたら大変だったろうな」



「富士はいつそうなるかわからないからな」





二人が笑いながら話しているのを、後ろを歩きながら聞く。






数日で、もう、ここまで来た。




八束さんや宗忠さんが頑張ってくれたお陰で。






歩いてくるよりも全然早い。



あと四本も川を越えないといけないけれど。






もう、ここまで。



富士山が見える場所まで来た。






鎌倉まで、あと少し。



彼の元まで、あとほんの少し。





二人に隠れて、そっと涙を拭う。




日の光に貫かれて、白銀に煌いて散って行った。

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