第11話

「東海道は川が多いですよ。義博のように泳いで渡っても宜しいですが」






八束さんは馬たちを引いて、泳いで渡っていた。



すでに対岸に着いていたが、絶対に嫌だ。





「この寒さの中を泳げって?!!」




「はい」





にこにこと宗忠さんは笑う。


この人の笑顔に、無邪気さはないと思う。




何か腹黒さで満ちている。





一切手を貸してくれないところとか、



遠目で傍観して嘲笑っているところとか、私のこういう姿を見て、楽しんでいるんだと思う。




見かねたのか、八束さんが呆れたように口を開く。




「次の川は、渡し舟だから大丈夫だろう」



「よかったあ~」





ああ、と思って溜息を吐く。



現代ではしっかりした橋が架かっているから簡単に渡れる川も、本当に死活問題。




山越えも大変だけれど、同じように川越えも本気で大変。




流されたら死ぬような気がするし。






「あと三、四本川を越えれば、もうすぐ富士が見えるぞ」



「え?」





富士?



もしかして、富士山かしら。





何だか、嬉しくなる。





「姫は富士を見るのは初めてですか?」



「そんなことないわ、何度も見たことがあるもの」





東京からでも、高い建物の上からちょっとだけ見えたりした。



修学旅行で京都に行ったときに新幹線から見たわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る