第10話

彼の色が、翳ることはない。




灰白に、美しく発色して、この道に落ちる白銀の雪と同じように瞬いて、瞬いて叫んでいる。




目の奥に痛みだけ残して、早く会いたいとただそれだけ思う。





それは決して、不幸なんかじゃないと信じたい。







「会いたい、ただ一人がいるから」






そっと、微笑む。



どこまでも、追いかけていく。





「・・・世界中が敵に回ったも同然なのですよ?」





じっと見つめて宗忠さんは言う。



今のこの状況は、本当にそうだと思う。




世界中が、敵に回ったも、同然。




もう、逃げ場はどこにもない。


いつ殺されてもおかしくはない。





私も、彼も。





けれど、後悔しない。




絶対、しない。




こうなった今でも、大好きだと、叫べる。






「・・・そうかしら?」



「え?」




宗忠さんは首を傾げた。





「世界中が敵に回ったなんて思ってないわ」





にこっと笑う。





「だって、八束さんも宗忠さんもこうやって手を貸してくれるし」





そう言うと、二人は顔を見合わせて笑った。



悲観的になっている暇なんてない。





東海道を東へ、東へ。



一刻も早く、東へ。





鎌倉、まで。






どこまでも、追いかけていく。




山を越えて、川を越えて、どこまでも行く。







「ちょっとちょっと!!揺らさないでよ!!!」




「揺らさないでよ、などと私も歩いているのですから」





にこにこと笑って、宗忠さんはさっさと私の前を行く。



少しくらい、気を遣ってくれてもいいのに。





「これくらいの浮橋、難なく渡れるようにならなければ」





涙目になりながら、ようやく対岸へ這いつくばるようにして渡りきった時に、宗忠さんが素っ気無くそう言った。




「う、浮橋苦手なのよ」




川幅の広くて深い川が、東海道には沢山ある。



川を渡るために、船を並べてツタのような植物で繋ぎ合わせて対岸まで渡してある。




そこをよたよたと渡って行った。





一歩間違えば水没しそうだし、振り落とされそうになるし、もう踏んだり蹴ったりだ。

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