第8話

「宗忠さんも、八束さんと同じように直義様のご家来の方なの?」



「ええ。そうですよ。八束とは幼い頃からの友人です」



「幼馴染なのね」




そう言うと、八束さんと宗忠さんは少し照れ臭そうに笑った。



ようやく、宗忠さんの人間味が滲んだ笑顔を見たような気がした。



すぐにあの胡散臭い笑顔に戻ったけれど。





「そう言えば、姫はそっくりですね」





不意に宗忠さんがそう言った。



「え?」



そっくり?


尋ね返した瞬間、察する。




大和と似ていると、言っているんだと。




はっと息を呑んだ私を見て、宗忠さんはさらに笑った。





「おい、その話はやめろよ」




八束さんが宗忠さんに向かってそう言った。


それを聞いて、八束さんも大和に会ったのだと気付く。



心臓が、跳ねた。




きっと不安になったのは、大和が私のことをまだ憎んでいると知ったから。


一生許してもらえることなどないと突きつけられて、苦しくなったから。





「やめろなどと何を言いだすんだよ。俺は思ったことを言ったまで」




敬語の抜けた宗忠さんのその声は、さらに重みを増す。



笑っているけれど、やっぱりその笑顔は嘘くさい。





「・・・大和のことを言っているんでしょ?」





自分から切り出す。


八束さんは息を呑んだ。




宗忠さんはにこにこと笑っていたけれど。






「その話し、やめろよだなんて、大和と何かあったの?」





揺らがないように淡々と尋ねると、八束さんは苦い顔をした。




「ねえ?」




じっと見つめて促す。





「大和様は、姫を殺してでも、足利に天下を獲らせるからと、義博におっしゃったそうですよ」





はっと息を呑む。




私を、殺してでも。




肺に矢が刺さる。


上手く息ができなくて、世界が灰色に染まる。




馬上はぐらぐら揺れていて、それが私の芯からくる震えか、馬の揺れかわからなくなる。





「宗忠!!」




「教えて差し上げればいい。別に義博が抱えておく問題じゃない」





それは、確かに、そう。



八束さんが抱える問題ではない。




私が抱える、もの。

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