第2話

「・・・そんなこと・・・知っております・・・諦められないことくらい、知っております・・・」





ずっと傍にいたから。



苦い顔になる。




呉羽は俺の一番傍で、俺を見ていてくれた。





「知っております。私は大和様を心の底から好いておりますから・・・」




「く・・・」





その腕が頬から首に回って引き寄せられる。





「私は貴方様をここに繋ぎとめておきたい。この時代に、繋ぎとめておきたい」






俺を、ここに。



何だかんだ言って、この時代に来て、もう三年経ってしまった。





「その必要は・・・ないよ」



「え?」





「もう、とっくにがんじがらめになってる」






抜け出せるとも、思わない。





「大和様・・・」





幸せになるのが、怖い。



そうだよ。



俺は怖がっている。





温かい何かに触れたときに、一気にこの時代の人間になってしまうような気がして。





足かせになるようなものを、自ら進んで作りたくなんてないと思ったのに。





そのせいで俺は楓をこの手で殺してしまったのに。




あの日、楓が言った言葉を思い出す。



俺の手にかかって死ねば、俺はきっと一生楓のことを忘れない。




本当に、その通り。





今でも、鮮明にあの日のことを思い出す。



いろいろな後悔と共に。






何もかも、忘れてしまいたい。




そう思うのは、俺の弱さ。




わかってはいるけれど、忘れてしまいたくなる。



そうしてただ一人の人間に戻りたい。

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