第90話
「・・・くだらないね。」
突然、御簾の向こうからそんな声が聞こえてきて、目を見張る。
「くだらない。しげも智久も、誰に向かってものを言っているのさ。」
瞬時に満ちた緊張感に、肩が上がる。
殺気にも似た、この感覚。
「別に気づけばいい。俺は痛くもかゆくもない。何も俺の行く道の妨げになんてならない。」
絶対的な、強さ。
そんなことを思う。
「しげ。これ以上俺を怒らせたい?」
「・・・そういうわけではございませぬ。」
しげちゃんがそう言ったのと同時に、御簾が跳ね上がる。
驚いて息を飲んだ時、真白くんが御簾の向こうに見えた。
「・・・俺は分別はわきまえているつもりだけど。」
目線だけ下に落として、ひれ伏していたしげちゃんにそう言う。
「南の御方様を困らせるようなことはお控えくださいませ。」
「だったらしげは黙ってるんだね。智久。人払いを。」
いつものようにすぐに返事がない。
智久さんは、じっと真白くんを見つめて唇を真一文字に結んでいる。
「智久、聞こえなかった?」
じろりと真白くんは智久さんを睨みつける。
智久さんはその気迫に負けて一度深く頭を下げて、しげちゃんを立たせてその場から離れていく。
「・・・飛鳥も、下がれ。」
私の傍で顔を青くしていた飛鳥ちゃんを、真白くんは冷たい態度で追いやっていく。
部屋には、私と真白くんだけ取り残される。
「・・・真白くん・・・皆の言うとおりよ。私、大塔宮様しか・・・。」
「改めてそんなこと言ってくれなくていいよ。」
私の口も、そんな強い言葉で簡単に制する。
思わずつぐんだ口が、なかなか開けない。
そんな私を見て、真白くんは視線を落とす。
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