第89話

「姫に会わせて!!」





そんな声が、御簾の向こう側でする。



切羽詰まったような真白くんの声に、身が縮こまる。





「何ゆえ、でございますか?」





不意にそんな声が、御簾の向こうでする。



しげちゃん?




どうして真白くんを止めるのかしら?





「いいから!!そんなことしげに言う必要がないよ!!」




「ございます。私は南の御方様の侍女にございます。主を護るのも私の勤め。」



「・・・しげ?」








「顕家様。南の御方様は、大塔宮様のご側室様でございます。」









その言葉に、御簾の向こうにいたけれど、すうっと熱が冷えて行くのを感じる。





「何を、言いたい?」






心臓が、バクバク鳴っている。



その声色だけで、真白くんが少し怒っているとわかる。






「お立場を、わきまえていただきたいのです。」







お立場を。



ぐらりと世界が揺れるのを感じた。





ほら、やっぱり私が真白くんの傍にいるのはどこか違う。






何か歪みを生じさせる。






「・・・最近の顕家様は目に余るものがございます。他の家臣の皆様も気づいてしまうのではないでしょうか。」






露骨に。




「・・・南の御方様・・・。」





隣りで飛鳥ちゃんが私の名を呼ぶ。



大丈夫ですか?とでも言うように。



それを聞いて、小さく頷く。






「・・・私も滋子殿のご意見に賛成でございます。顕家様。」






そんな声が頬を叩く。



智久さんの声。



いつものおちゃらけていない、智久さんの声。





心臓が、痛い。



苦しくて、悲しくなる。

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