第87話
「そしてもう一つ・・・。」
ん?と言うように後醍醐天皇は俺の目を射ぬく。
にいっと笑った。
瞳に映る後醍醐天皇を、歪ませて崩壊させる。
「・・・足利高氏に、内昇殿をお許し下さい。」
ないしょうでん。
天皇の生活の場である、清涼殿――せいりょうでんと言うところに昇ることを許されること。
つまり、帝の側近として認められると言うこと。
武家である高氏は、貴族ではないからまだそれは許されていない。
「つまり、軍事面は大塔宮様におまかせし、高氏は公卿化するということでございます。」
公卿、貴族へ。
武家である高氏は、武力を統率するのが慣例だけれど、
最早それは大塔宮様に譲り、高氏は貴族化させ、武力には関わらないようにする。
「そうすれば、大塔宮様もご納得になりますでしょう。」
一応自分がいる限り、高氏が次の天下を望むことはできないと気づくはず。
最早武家ではなく貴族化した高氏が、全武力をその手中に収めた自分に、敵うはずがないという結論に達するはず。
策は、二重三重にかけておかなければ。
大塔宮様を欺くことは難しいかもしれないけれど、
高氏が武家としての力を失ったことが、未だに警戒している周囲の疑いを、晴らす要因にもなってくれるはず。
後醍醐天皇は、すぐに深く頷いた。
「・・・ではそのように護良と足利に勅許を出す。」
ちょっきょ、つまり、天皇陛下から直接の命令を下すと言うこと。
「・・・御意。」
これで大塔宮様は征夷大将軍になる。
軍事力の頂点。
高氏がのどから手が出るほど欲しがっている地位。
敬意を表して皆、宮将軍と呼ぶその御姿をまぶたの裏に思い描いて少し笑う。
やっぱり、まぶたの裏側は赤く緋色に燃え上がって、その姿も赤に沈む。
王手。
胸の内でそんなことを思う。
最早、大塔宮様の悲劇の運命は、将軍職を手にすることで決まったも同然。
にやりと笑った。
最後に笑うのも、正しく俺なのだから。
緋色■黄みを帯びた鮮やかな赤。ひいろ。
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