第85話
「せ、せいい、たいしょうぐん・・・。」
後醍醐天皇は繰り返す。
そう。
征夷大将軍。
この任に就くと、帝から軍事力の全権を委任される。
つまり、軍事力のトップ。
もしも戦が起こったときなどに、軍事力のトップであるから、軍事に関して絶対的な権限を持つ。
それが征夷大将軍。
源頼朝も征夷大将軍に任じられている。
軍事力、つまり武士たちのトップに立つには、その大将軍の任はかなり重要だった。
この任に就くことによって、部下である武士たちに己が一番上なのだと示しがつく。
それを利用して、頼朝は、東国の武士たちをまとめ上げて、朝廷とは独立した政権を鎌倉に樹立する。
その後、将軍位は頼朝の子供たち2人が暗殺されたことで源氏の将軍が途絶え、京から宮家の皇子などを迎えて将軍位に据えていた。
ただし、その宮将軍たちは執権として政治を行っていた、北条氏の操り人形と化していたため、宮将軍と言っても、形式的な面が強い。
強いけれど、これは大塔宮様にとっても悪くはない話。
今はもう、鎌倉殿は滅亡し、北条氏はいない。
全ての軍事力の権限は、大塔宮様に集中するも同じ。
しかも、大塔宮様は先の戦の実績も経験もある。
何も知らずに将軍位に就いた、先代の宮家の皇子とは全く違う。
「はい。大塔宮様が大将軍になられるということで、大塔宮様にとっても折り合いが付くことになるでしょう。」
後醍醐天皇はどういうことだ?と口には出さなかったけれど、ただ瞳を少し歪めただけでそれを表現する。
理解できていないことを、プライドがあるせいか素直に聞くこともできない。
そう思って、胸の内でせせら笑う。
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