第84話
「・・・今はまだ良い。金剛山を包囲していた残党がまだ大和国の興福寺に残っているらしいから、それを追討するために志貴山に残っているという名目が成り立つ。しかし・・・。」
「数日以内にその残党も皆、大塔宮様に降伏致します。」
そう言うと、後醍醐天皇はやはりな、と顔を曇らせる。
「そうなると護良は京を襲うように見えてしまう。もう一応敵はいないのだ。なのにまだ武装解除せずにいるというのは、反旗を翻しているように見えても仕方ない。」
その気はさらさらないのだということもよくわかっていると、後醍醐天皇は続けた。
一応、大塔宮様を心配しているのだと知る。
後醍醐天皇は時に恐ろしいほど冷徹で、己の私利私欲のために動いているのは俺もよくわかっている。
そこにあるのは真の親心か、
それとも、何か別の真意が隠されているのか。
ちょっとこれだけでは推測できないけれど。
「何としてでも、護良に京へ戻ってきてもらわねばならぬ。大和はどう思う。」
突然意見を求められる。
もっと素直に、どうすればいいのかと、すがってくればいいのに。
俺がいないともうままならないとでも言えばいいのに。
唇をにいっと横に広げる。
楽しいと、心の底から思う。
「畏れながら申し上げます。」
「なんだ。」
後醍醐天皇は、ぐっと体を前に乗り出す。
その姿を見て、最早後醍醐天皇にとって大塔宮様は、すでに厄介な息子になっていることを知る。
可哀想に。
あんなにも、後醍醐天皇のためを思っていると言うのに。
破滅を、と思う。
もう、大塔宮様には破滅の道しか伸びていない。
「大塔宮様に、征夷大将軍の任を。」
はっと、息を飲む音が聞こえる。
しんと静まり返った世界が、驚きで満ちて肌がぴりぴりとその緊張感を受け止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます