第83話

「護良は心配しすぎなのだ。足利が今度は私に牙をむくなど、考えすぎなのだ。私はまた戦など、考えられない。」






ふっと、笑った。



それは馬鹿馬鹿しいですね、と言葉に出さずとも伝わるようにそれを含んだ笑みを返す。



それよりもぼろりと真意が出たことに、心の中では大笑いしたくなる。






後醍醐天皇は、本気で次の戦のことなど考えていない。






ようやく京に戻ってきたんだ。


あんなにも帰りたかった場所へ。




けれど大塔宮様と足利が戦をするとしたら、その京が戦場になる。




そうなると帝である自分は、再び京を離れて安全な場所に籠っていなければならない。




それこそまた何年もかかるかもしれない。





それは嫌だと思っている。



どうしても嫌だと。






浅はかなのは、どっち?







もしも後醍醐天皇がそれも厭わなかったら、歴史が変わっていた。



もう戦なんてこりごりで、せっかくの京から離れたくないなんて馬鹿な理由で駄々をこねなければ、きっと足利の天下は来ない。






後醍醐天皇は、この後恐らくこの選択を失敗だったと思うだろう。







なぜあの時、大塔宮様の進言に従って足利を討っておかなかったのかと後悔するだろう。





にやりと笑った。




所詮後醍醐天皇も、この国の頂点に立つような器じゃなかった。





天に捨てられた。




それだけの話。






大塔宮様も、それだけの話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る