第76話

「・・・俺は、ここにいると伝えて。恐らく真白は俺がここにいることは姉ちゃんに言っていない。」




真白はあんなに俺を中に入れさせようとしなかった。



恐らく、姉ちゃんは知らなかったから。





だから、言って。





俺はここに、いると。





会いたいのか、会いたくないのかわからない。



わからないのは、姉ちゃんの反応を見るのが怖いから。





俺に会いたいと、今でも望んでくれているのかわからないから。







だったら、姉ちゃんに後の判断は任せる。





「お約束は・・・。」




「取りつけなくて、いい。どうしても会いたいのならば、そちらから来て、と伝えて。」






もう一度、選ばせる。





俺か、



大塔宮様か。






どちらを選ぶかなんて、よくわかっているけれど。




きっと俺はまた黒に沈むのだろうと、知っているけれど。





「ただし、足利に来るということはおよそ危険なことだと言って。大塔宮様は足利と対立している。そんな中、ご寵姫様が来るっていうことがどういうことかわかっているのか念を押して。」





その危険を冒してまで、俺に会いにくるのならば、いろんなこと許してあげれそうだ。



ただ、許す口実を探しているだけかもしれないけれど。





「俺は、ここにいると言って。」






もう一度繰り返す。






俺からは、会いに行かない。



あんなに探したんだ。



あんなに、姉ちゃんのこと大事に思っていたんだ。





今度はそっちからそう思ってほしいなんて、ガキっぽいな俺。




「・・・わかりました。」





呉羽は不服そうだったけれど了承した。





もう、そろそろ決着をつけよう。



俺だって、いつまでも黒の中に沈みたくない。






歩む道は別だと、再認識するかもしれないけれど。






「・・・落ち着きましたか?」





呉羽はそっと微笑んで言った。


気づけば、いつの間にか落ち着いている。




恐らく、呉羽はああ言えば正気づくことを知っている。





俺が譲れないものを、知っている。






「ありがと、呉羽。」





俺の忠実な家臣。



その身に溺れて、何も考えたくないと心底思うけれど、俺はまだ帰りたいから。




あの時代に、帰る望みを絶てないから。

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