第75話

けど、ダメだ。






俺はいつか、必ず帰るんだから。




こんなところで足枷になるようなものを絶対に作るものか。






「・・・呉羽。」



「はい。」





そっと、顔を上げる。



呉羽の目を見れずに、その緋色の唇を見つめながら。






「北畠を、探って。」







そっと視線を上へ持って行く。




「・・・はい?」




ようやく、目が合った。



呉羽は理解できないと言うように、眉を歪める。






「北畠を探って。最近北畠に入った女がいる。探って。」







は、と言うように、呉羽の目がさらに大きく見開かれて俺をじっと見つめる。



驚いているのか、言葉が落ちない。







「・・・俺の、姉ちゃんかもしれない。」








姉ちゃん、かも。





会いたいのか、


会いたくないのか。






「・・・ひな・・・づる姫・・・?」







呉羽が震える声でその名を呼ぶ。



滅多に揺らがない呉羽がこんなにも狼狽している。



小さく頷いた。






「何故!!何故、雛鶴姫が!?真白殿の元へいると言うことは、真白殿が雛鶴姫をもらいうけたと言うことですか?!大塔宮様から?!何故?!」







そんなこと、わからない。



けど。





「恐らく、もらいうけたわけではないと思う。とにかく探って。そこにいるのが雛鶴姫か、それとも違う誰かか。」






違う誰かであればいいと、実は少し願っている。




本当は、ほんの少し。





「もし、雛鶴姫であったら?!」






呉羽はギロリと俺を睨みつけた。



その胸の内に燃える炎は、まだ赤々と燃えあがっている。



それを、再確認した。

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