第71話

「・・・ひな・・・」



「智久っっ!!!!」







突然真白が叫んだ。




その言葉の全てを得ることができなかったけれど、心臓が大きく飛び跳ねたのを感じた。





冷たい血液が、さあっと一瞬で体中を駆け巡る。






「・・・『ひな』・・・?」




「帰れ!!俺の気持ちは変わらない!!帰れっっ!!」






真白は瞬時に立ちあがって、智久さんを門の内に押し込める。





「待て!!真白!!まし・・・!!!」






駆けるようにその門の内に消えていく。



門兵たちに抑え込まれて、俺はその門を越えられない。





もしかして。






そう思ったら、止まらない。



もしかして、姉ちゃんが?






姉ちゃんが、北畠にいる?







何で?



どうして?







うわ、と思った時には、そんな疑問符に頭の中を支配されて、胃の中のものを全て吐き出しそうになる。






初めて鎌倉に来た時のように。





信じたく、なくて。






こんなにも近くにいることが、信じられなくて。







会いたいのか、会いたくないのか、わからない。




会ったらきっと壊れてしまう。





俺は、もう、きっと、一歩も歩けなくなる。






そう思ったら、逃げ出していた。





憎むことで命の火を燃やしているのに、


憎めなくなったら、俺はきっと死ぬ。





きっと、どうやって生きていったらいいかわからなくなる。






楓。



楓、助けて。





傍にいて、誰か。



誰か。






俺を、助けて。





こうやって走る俺に、


間違ってはいないと、囁いて。

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