第69話

「だから、真白。」




もう一度、耳元に唇を持って行く。





「・・・俺と一緒に天下を見ようよ。」






天下を。



真白は俺を突き放して叫んだ。





「ばっ・・・!馬鹿だ!!言ったじゃないか!!俺にそんな未来存在しないって!!」





真白を殺すのは俺だと。





「でも俺、真白のこと大好きなんだよ。真白が望むなら、その未来どうとでもしてあげる。ずっとここにいさせてあげる。」






邪魔なのは、北畠顕家の存在。



大塔宮様の有力な庇護者である、北畠家の長男。




少し、黙っていてもらいたい。





北畠が何も言えなくなれば、いや、俺の手足になれば、飛躍的に大塔宮様を追いつめられる。



その片翼をもいだも同じ。





だからこう言って、真白の内側を揺さぶる。



大きく。





真白はなんだかんだ言ってお優しい人間だからな。



俺を突き放すこともできずにいる。




俺なんて、今ここで斬り伏せてしまえばいいのに。






「・・・このままだと真白は遠い場所に行くんだ。誰の命令だと思う?」






唇をほころばせて言葉を落とす。



真白はただ目を見張って俺を見つめる。






「・・・大塔宮様、その人だよ。」







一瞬、真白の体が揺れたような気がした。



太陽が天高く昇って俺と真白の影を焼く。



じりじりと、その場に縫いつける。




瞬きするたびに閉じた瞼の裏側が緋色に燃えている。



全てを焦がすように。





「だから、ね、真白。俺と一緒に高氏に味方しようよ。大塔宮様を、見捨ててさ。」





俺に味方してよ。



本当は、歴史を変えるなんてこれっぽっちも思ってはいないけれど。


俺に味方してくれたって、結局真白は京を離れるだろうけれど。




大塔宮様の傍に真白がいるのといないのじゃ、随分違ってくると思うから。






だから、騙す。







真白はその場に崩れ落ちて膝を付く。


智久さんが駆けよってくるのを、真白は瞳で制す。



ぴたりと、智久さんは足を止めた。

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