第68話

「すぐに終わるよ。大丈夫。耳を貸してよ、真白。」




「あ、顕家様、なりませぬ。」




智久さんは真白を制するけれど、真白は俺をじっと見つめて歩いてくる。



睨みつけてと言ったほうが正しいかもしれないけれど。



智久さんは門のところで呆然と立ち尽くしている。


俺は話を聞かれないように、少し距離を取って離れる。



智久さんの顔が朧になったところで立ち止まった。






「・・・何?」





その強い瞳。



俺のことを拒絶しているわけではないけれど、その強さ。




「・・・何か変わったな、真白。」





気づけば呟いていた。




「何が?」




背丈は俺と並んできた。



俺だってそんなに低くはないほうだけど、このままだと真白に追い抜かされそうだ。




その顔は、相変わらず秀麗な顔だと思う。






「よくわからないけど・・・。例えば、護るものができたような・・・。」







そう、そんな感じ。



俺を、一歩もその屋敷の中へ入れさせないと言うような、気迫。





真白は少し驚いたような顔をした。



けれどすぐに俺をじっと見つめる。






「・・・だったら、何?」





だったら?



答えるように唇の端がゆるりと上がる。






「・・・面白くなるなって。誰か傍に置いたの? あの真白が?」






姉ちゃんに溺れきっていると思っていたけれど。



まあこいつだって名門北畠の長男、結婚したって何にもおかしくない。




でも、そんな歴史があったか?





「別に俺が誰を傍に置いたって、関係ないよ。」





じわりと滲む、焦りの色。





「確かに関係ないね。それに真白は・・・。」






そっとその耳元に唇を近付ける。



真白はただ、俺を目で追っていた。







「真白は、もうすぐ京から離れることになる。」








それだけ言って、唇を離す。



真白は目を見張っていた。







「・・・その人、護れないね。」







ふふっと笑った。



残念と、嘲笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る