第四章 緋色
予想外
第67話
■■■■
高氏との約束通り、俺は皐月中に京へ戻った。
今日は元弘三年、水無月二日。
1333年、6月2日。
後醍醐天皇の元を離れる前に、一度けん制しておいた。
大塔宮様から、足利討伐計画が示されることと、
それを実行したら、間違いなくまた大塔宮様が戦の最高責任者になり、さらに武名と人気を上げるだけだと、阿野廉子様にけん制した。
恐らくそう言っておけば、廉子様の御子が帝位に就くことがさらに遠のくと、あの人は気付くだろう。
絶対に、廉子様は足利を討伐することに賛成はしない。
絶対に。
にいっと、笑った。
楽しくて。
じりじりと焼く太陽の熱さを背に感じながら、笑って馬を駆る。
会いたい人がいるから。
どうしても、会いたい人が。
「あの。」
門の前に立っている、門番兵に声を掛ける。
「何だ?」
訝しげに眉を歪めて、持っていた槍の切っ先を俺に向ける。
「こちらの御当主様に用があって来たんだ。連絡はしてないんだけど・・・。会えるかどうか聞いてもらってもいい?」
「? 名を名乗れ。」
「桜井大和。そう言ってくれればすぐにわかると思う。」
二人は訝しげに俺を見ている。
まあ、しょうがない。
こんなどうでもいい小袖を着て、明らかに身分も官位もないような姿をしているんだから疑ってもしょうがない。
「来ているって、伝えてもらうだけでいいからさ。会えなかったらそれでいいし。」
そう言うと渋っていたけれど、一人が奥に引いた。
引いて、しばらく待つと奥が慌ただしくなる。
来たな、と思ったら自然と頬がにやりと上がる。
「何でここに!!」
「顕家様!!お待ちを!!」
門から飛び出して来た真白を、この間会った側近の男が抑えつける。
「久しぶり。ちょっと話したいことがあって。」
「智久!!離せっ!!」
「なりませぬ!!顕家様っ!!」
あの側近の男、智久さん。
かなり警戒しているな。
まあ俺の正体を知っているんだから、しょうがない。
でももう、同じ後醍醐天皇の臣下なのだから、こうやって会いに来たって何も困ることはない。
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