第66話

背筋がすうっと冷える。



足元に力が入らなくなる。





「・・・大塔宮様を・・・殺す・・・。」





呟く。



飛清さんが康子様には気をつけろと言っていたけれど、まさかそこまで。



いいえ、でも。





「・・・最悪、と言うことです。」






四の宮様は私の顔色を伺いながらそう言った。



ごくりと、一度唾を飲み込む。





のんびりと、この雅やかな金色の国で過ごしていけると思ったら大間違いだった。






ここもまだ、戦場だ。



血の、見えない戦場。





金色の世界の裏側は、こんなにも猜疑に満ちた世界が広がっている。







「もちろん同様に私も狙われるでしょうが、私は最早帝位までの道からそれてしまっている。このまま比叡山の座主を務めていればそのようなことはないに等しい。けれど兄宮様は違う。同様にご側室様である義姉上様も、お気をつけて。」





私も、同じように命を狙われる。



このお腹の子も。





事態は思ったよりも切迫している。



私はそんなドロドロとした中に、放りこまれている。






「・・・私に、何ができるのかしら・・・?」







呟いていた。



およそ、できることはないと知っていたけれど。






「・・・兄宮様のお傍を離れずにいてください。」






お傍を、離れずに。



そんな間接的なことではなく、もっと直接廉子様と渡り合えたら。





「・・・兄宮様の周囲に目を配って、不審なことがありましたらすぐに側近に。私もお力になります。」





私にしか見えない何かがあるかもしれない。



それくらいしか、私にはできない。





ふがいない。



本当に、自分が。





何かしたいと望むのに、何もできない。






「・・・ありがとうございます。」






夏の風が鶸色を揺らして吹き抜ける。



生まれたばかりの小鳥の羽の色。



芽生えた決意の色。




絶対に彼を、護ってみせると心に決めた。






鶸色■小鳥のひなの羽の色。黄色に近い黄緑色。ひわいろ。

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