第65話
「・・・私自身も、幼い頃から僧籍に入っており、近年では私が兄宮様の後に天台座主を務めたこともあって、兄宮様には随分可愛がっていただきました。」
四の宮様はそっと天を仰ぐ。
その青に、身を委ねるように。
「・・・今、兄宮様には敵が多い。」
その言葉に、目を見張る。
涙が嘘みたいに落ちるのをやめる。
「配流地の讃岐から戻ってくる際に聞いたのですが、兄宮が帝位につくのをあまり快く思っていない方がいらっしゃる。」
四の宮様と目が合う。
じっと、見つめ合う。
その御方がどなたか、胸の片隅で察して口を開く。
「・・・阿野・・・廉子様・・・?」
ぼろぼろと落下していく言葉を、四の宮様はそっと受け止めてくれる。
「・・・ご存知でしたか。」
小さく頷いた姿を見て、やはり、と思う。
飛清さんが言っていた。
宮中には鬼が住むと。
「ええ。」
「・・・皆、気付いていらっしゃるのですね。余計な事だったやもしれませぬ。」
「そんなことありません!!」
気づいたら、声を荒げていた。
四の宮様はやっぱり何も揺らがずに私をじっと見つめている。
「・・・父君には子が多い。」
「え?」
何を、突然。
「・・・一の宮の兄宮様から私、四の宮までの四人の皇子がまずいるのです。」
首を傾げる。
四人の皇子。
では、その後は?
もしかして・・・。
「五人目の皇子様からは・・・廉子様の・・・。」
御子。
四の宮様は声を出さずにただ頷く。
その仕草がまた、事の重大性をあらわにしていく。
「・・・二の宮の兄宮はもういない。一の宮の兄宮と私の母の身分は低い。三の宮の兄宮は・・・申し分のない出であるし、同じく申し分のない人気も御持ちです。」
邪魔だ。
そんな言葉が胸の内に生まれる。
廉子様にとって、彼は邪魔すぎる。
自分の御子を帝位にと望んでいるのならば、彼の存在は邪魔。
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