第64話

「私は本当に嬉しかったのです。」





そう言った四の宮様を見上げる。



四の宮様も私を見ていた。




音もなく、その唇が弧を描く。



その笑顔が優しすぎて、ただ瞳に映していた。







「・・・そんな兄宮様が、ようやく心の底から安らげる場所を見つけられたのだと。」








はっと息を飲む。



光が一気に瞳の奥を突き刺して痛い。




心の底から、安らげる場所?


それは、私の傍?





揺らいではならぬ、と囁く彼の声。




それは私の前だけで吐く弱音。





自分に言い聞かせるように私の前で呟いては、


本当は助けてくれと嘆いている声。





「な、泣かせるつもりでは・・・!!あ、義姉上様っ!!」





そう言われて、自分が泣いていることを知る。



慌てて着物の袖口で目元を押さえる。





「も、申し訳ありませぬ!!私、おかしなことをっ!!」





四の宮様が惑っているのを、溢れる感情の隙間で知る。



ただ、首を横に振る。




言葉にならなかったから。





会いたい。



ただ、会いたくてたまらない。





「・・・ご、めん、なさ・・・。嬉しくて・・・わたし・・・。」






嬉しくて。



どうしようもなくて。






彼が戻る場所はこの手の内。



どこまで行っても、私と彼は比翼と連理。




何度生まれ変わっても、


何度死が二人を分かっても、






必ず巡り会う、永遠の約束。







何度でも恋に落ちる。


何度でも彼の前に立つ。




だって、互いがいなければ私たち、未完成。




片翼しかないから。


相手の翼を借りなければ、空すら飛べないイキモノなのだから。

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