第63話

「・・・私と一の宮の兄宮様は、同じ母君であるので、私と一の宮の兄宮様は和歌をたしなむのですが、三の宮の兄宮様は違う母君ですので、こうも似ていないのだと思っております。」




そうか、つまり父親はみんな後醍醐天皇であるけれど、母親が違う。




一の宮、たしか尊良親王と、四の宮様は父親も母親も同じ。



彼と四の宮様は父親だけ同じと言うことか。






「そうなのですね。」



「私にも兄宮様の武があればよかったのですが。」





四の宮様は笑いながら立ち止った。



私もその隣りに立つ。




しばらく、黙って二人で若々しい緑の中に立っていた。






「・・・やはり京へ戻ってくると、創作意欲が湧いてきます。」






ふふっと笑う。



その笑顔が本当に、和歌を作ることがお好きなんだと思う。






「・・・兄宮様はいつも、御自分のお立場とお役目を理解しておられた。私たちが所詮父君の駒の一つだとしても、兄宮様はその駒の役目を全うしている。最大限のお力で。」





突然、四の宮様はそんなことを言った。



駒の一つ。



そんなこと、言ってほしくはないけれど、それはよくわかっている。




アカノクニやアオノクニで散々思い知った。




戦には勝ったけれど、恐らくそれはきっと今も続いている。



後醍醐天皇の御世が続く限りずっと。





「戦や、政治の道具としても、揺らがぬ兄宮様は私の自慢の兄です。」





揺らいでは、ならぬ。




そう言った彼の声が、耳元で何度も繰り返される。




その言葉の重みと、彼の弱さが一気に圧し掛かってきて息もできなくなる。





苦しくて、たまらない。





あの人は、そういう人。



他人の苦労まで背負いこんで、自分は絶対に揺らがないように立っている。





表に苦しみを出すことなく、さもないと笑っている。






「きっと本当はものすごくお辛いでしょうに。」







四の宮様がぽろりと落とした言葉に目を見張る。





「・・・自分が戦場に立って初めて、兄宮の偉大さに気づきました。」






同じ立場になって初めて。


それを彼の前で言ってほしい。




彼はきっとものすごく喜ぶ。



そんなことはない、と言うだろうけれど。

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