警告
第62話
「姫。」
「はい。」
すっと差し出されたその手に、自分の手を重ねる。
そのまま引かれて、庭に静かに降りた。
「木陰に参りましょうか。日差しが強くてその真白い肌を焼いてしまう。」
ふっと四の宮様は笑って、手まねきをする。
私はそれに従って、四の宮様の後を追った。
不思議な御方。
周りにいる人すら、その優しさに触れて温かくなるような気がする。
昨日に比べたら天と地の差があるほど、四の宮様は綺麗な衣装をまとって、その髪も束ねてすっきりしている。
恐らく、衣装は北畠が用意したものだと思うけれど、昨日と同じような鶸色だけど真新しくて、まるで幹に茂った若葉のようでよく似あっている。
「・・・戦と言うのは本当に嫌なものです。」
四の宮様は歩きながらぼそぼそと言葉を落とす。
「・・・ええ。本当に。」
こちらを見てはいなかったけれど、一度頷く。
「私は兄宮様と違って、戦場よりも和歌をたしなみたい。戦なんぞ、もう二度と嫌です。」
戦よりも、和歌を。
彼が武人であるとしたら、
四の宮様は文人。
「・・・和歌がお好きなのですか?」
尋ねると、四の宮様はそっと振り返った。
その唇は優しく弧を描いている。
「ええ。私の母は歌人でして、私も同じように和歌をたしなんでおります。」
「かじん?」
尋ねると同時に、しまった、と思う。
恐らく、この言葉は普通に多様されている言葉であって、知らない人なんていないのだと思う。
四の宮様が露骨に驚いた顔をしたから。
けれどまたすぐに四の宮様は微笑む。
「和歌を作る人のことです。しかもその和歌が世間に認められている人とでも言えばいいでしょうか。」
なるほど、と思って頷く。
やっぱり無知なのが恥ずかしい。
絶対に変な女だと思われた。
けれど大して気にしていないとでも言うように、四の宮様は口を開いた。
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