第59話

はっと、息を飲む。






黒い瞳が私を見下ろしている。



何の、表情も感情も、そこから生まれないほど、冷静な瞳で。





彼には全く似ていない。



そんなことを思う。





束ねないまま散った、ぼさぼさの黒い髪。



簡素な鶸色の小袖。





正直、言われない限り、帝の皇子とは思えない風貌。






だけど、とても素敵な人だと思う。






私の前に座って、ただ見詰め合う。




言葉が出ない。



その視線から逃れられない。





静かに、その口が開いた。




思わず身構えたけれど、開いたまま言葉が落ちない。






いつの間にか私の口も開いて、二人でぽかんとした顔のまま見詰め合った。






「何て言う顔をしているのですか。御二人とも。」






突然そんな声が傍からする。



正気を取り戻すと、真白くんが呆れたように立っていた。





「あ・・・。だって・・・何かさ・・・。」





戸惑ったように、四の宮様は言葉を落とす。



ぼそぼそと。







「ああ、兄宮様がお好きな方だって思ったら・・・。声が出なくなった。」







兄宮様が、お好きな方。



その言葉に、胸の奥が切なくなる。





「その眉・・・。」





四の宮様は、言葉をぼろぼろ落としながら私の眉をじっと見つめる。



何だか突然恥ずかしくなって、瞳を伏せる。






「勇猛果敢な兄宮様に、ぴったりな潔い眉だ。」








そう言って、四の宮様は、ふっと笑った。



息だけの声で。




崩れたその顔が、可愛らしく見える。





笑わないせいか笑顔が素敵。






「あ、ありがとうございます。」





慌てて、頭を下げると、四の宮様は首を横に振った。

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