第58話

「顕家様、今日は何か?」




しげちゃんが、真白くんにそう言うと、真白くんはああ、と言うように笑うのをやめた。





「そう、四の宮様が讃岐から戻られたそうで、今日北畠に寄るそうなんだ。姫も会っておく?」





唐突なその言葉に、目を見張る。




「よ、四の宮様って・・・確か・・・尊澄法親王様?」





彼の弟。



そんちょうほっしんのう。




何度か聞いたことがある。



彼が、比叡山の座主を辞めた後に、比叡山延暦寺の座主になった御方。





四の宮様も戦って、掴まって、讃岐――現代の香川県に配流になっていたんだった。






「そうだよ。どうする?」




「もちろん、お会いしたいわ。」




どんな御方か全くわからないけれど。



彼の兄弟って、まだ実は会ったことがないのよね。




二の宮の兄宮様は、もうお亡くなりになってしまっているし、一の宮様は、九州にいらっしゃるんだった。




飛清さんは彼の兄だけれど、『宮様』ではない。





「そう。じゃあ、来たらここに連れてくるよ。もう少し待っていて。」




「ええ。ありがとう。」





真白くんはそれだけ言って、この離れを後にした。



四の宮様。



どんな感じの方なんだろう。




いい人だったらいいな。







夜が更けても四の宮様はいらっしゃることはなく、寝ようかなと思い始めた時に、智久さんが離れにやってきた。




「南の御方様。四の宮様がお越しにございます。」




「えっ?!こ、ここに?すでに、いらっしゃっているの?」





突然のその言葉に、一気に緊張する。



慌てて髪やら何やら直す。





「私どもは、次の間に控えております。」





飛鳥ちゃんとしげちゃんはさっさと御簾を上げて、部屋から出て行く。



やっぱり四の宮様も帝の皇子。





簡単に人前に姿をさらせるようなお人ではないのかもしれない。






「ええ。いらっしゃっております。今、お呼びいたします。四の宮様。」




うわあっと思って、何とか跳ねる心臓を押し込める。




ギシっと、板間の床が軋んだ音を聞いた。

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