四の宮

第56話

「南の御方様、さあ!」




「えっ?!ちょ、ちょっと待って!!」




赤松家家臣、櫛橋家の娘の飛鳥ちゃんは、私に向かって腕を伸ばしている。




「なぜ、抗いまする!!姫様は皆やっておりますよ!!」



「ダメっ!!嫌だっ!!絶対嫌っ!」





ぎゃああっと思って抵抗するけれど、飛鳥ちゃんの腕の力が強くてそのまま組み伏せられてしまう。



話を聞けば、今年十五だって言うのに、かなりしっかりしている。





「頑張ってください、南の御方様。」




しげちゃんが意地悪く私を見てにやにや笑っている。




「し、しげちゃんっ!!笑ってないで助けてよっ!!」





本気で助けを求めているのに、しげちゃんは苦しそうに笑うだけ。



ああ、絶対に嫌っ!!







「何をしてるんだよ。」




そんな声と共に、真白くんが御簾を上げた。





「あ、顕家様っ!!」



「顕家様。」



飛鳥ちゃんは驚いて私から飛ぶように離れた。



しげちゃんは悠々と頭を下げていた。




まさに天の助け!!





そう思って、私も飛びあがって飛鳥ちゃんから離れる。




「ど、どうもこうも・・・。」




飛鳥ちゃんは声を揺らした。




「何だよ。姫に何をしていたって?」




真白くんの気が、少し棘のあるものに変わったような気がしてひやりとする。




「わ、私がっ!!」





思わず、口を挟んで声を上げる。






「私が、眉を抜きたくないって言ったから!!」







「眉?」





はあ?と言うように、真白くんはその端正な顔立ちを惜しげもなく崩す。



間抜けな顔をしたとしても、どこまでいっても美少年なんだからすごい。




ううん、もう、美青年と言ったほうがいいのかもしれないけど。






「京の姫君様は、御自分の眉を全部抜いて、代わりに化粧で書くのだと。」






しげちゃんはにっこりと微笑んでそう言った。



そう。




飛鳥ちゃんは私の眉を全部抜こうとしていたのだ。



歴史の教科書によく載っている、お姫様と同じように。




それが、京の姫君の一般的な風習であって、ごく普通なことと知っているけれど。




でも、『まろ』みたいになるのだけは絶対にやだ!!





彼が戻ってきたら、確実に笑うと思うし。

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