第53話

「・・・大塔宮様が、もしかしたらしげが十津川を出ているかもしれないから探して、姫付きの女官にしたらどうだって書簡で言っていたから。」





呟くように、真白くんは言葉を落とす。




その言葉に、目の前が弾ける。





庭の鶸色がさらに瑞々しく輝く。



眩しくて、瞳の奥を焼くから、涙が出そう。





「だから、探した。それだけ。」







離れていても、護ってくれていると感じる。





大事にしてくれていると感じる。





私が一人で心細くないように。


私を考えていてくれている。






「私としてもありがたいわ。だって、生活していかなきゃならないし!」






しげちゃんは勢いよく笑った。



苦労も、どうだっていいって言うように。





「・・・真白くん、ありがとう。しげちゃんも本当にありがとう。・・・宜しくお願いします。」




「はい。滋子、南の御方様のために尽くします。」





突然敬語になって、しげちゃんはひれ伏した。




あ、と思う。






「私のことは、しげでいいですが、私にとっては姫は主ですから。」






かっこいいなと思う。



その切り替えが見事すぎて。





現代だったら、きっとバリバリ仕事する、キャリアウーマンになっていただろうに。





それよりも。






「その、南の方って、誰のこと?」






尋ねると、しげちゃんは苦笑いした。



みなみのかた、なんて、私の名ではない。





真白くんが代わりに口を開く。






「この家の南の離れの部屋に住む姫の意味だよ。女官や側近たちは姫の名を呼ぶことは憚られるから当たり障りのない名で呼ぶんだ。」






南の部屋を賜った姫。



その意味。





諱?






でも、雛鶴はすでに私の字よ?



それすら、禁忌?

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