第52話

「つまり、大塔宮様が十津川を出て行った時に朔太郎さんは付いて行かなかったってこと?」






確か、しげちゃんのお兄さんで若衆組の組頭だった正吾さんが言っていた。



朔太郎さんは行くか行かないか自由にさせるって。






「そ。結局、戦よりも私と逃げるほうを選んだってわけよ。」






屈託なく笑ったその姿が、眩しく感じる。



私も彼も、戦を優先してここまできたようなものだから、羨ましく感じる。



思ってはいけないことかもしれないけれど。





今も戦のせいで、私と彼は離れ離れだから。





どうしても、傍にいたいと思ってしまうから、そういう愛し方や愛され方が羨ましくなる。







「ちょうど口うるさいお父様も戦に行ったからいい好機だと思ってまんまと逃げて京に来て生活してたのよ。」





戦場にいた私と、しげちゃんの間に、通信手段は皆無。



一年も、二年も経ってから、その状況を知る。





やっぱり現代の通信手段の素晴らしさは、離れてみてよくわかる。




ボタンを押すだけで、


手紙を書いてポストに入れるだけで、





声を聞ける、心を通わせることは、本当に尊いことだった。







「・・・幸せ?」






気づけば、尋ねていた。



しげちゃんは、馬鹿ね、と言うように笑う。






「それをこの私に聞くの?朔ちゃんがいれば、答えは常に一つよ。」






私も、声を上げて笑った。



どんな状況でも、幸せ。





それは、本当にそうね。





真実、そう思う。







「ま、そんなこんなで、どういうわけか顕家様から御呼びが掛かったのよ。どこをどう調べたのかわからないけれど。」





しげちゃんは困ったわ、というように真白くんを少し睨みつけてそう言った。





「別に俺が根回ししたわけじゃないよ。確かに、直接探したりしたのは俺だけど。」






不意に真白くんはそう言った。



え?と思うとまた口を開く。

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