第51話

「・・・久し振り、しげちゃん。」



「ちづちゃんも、久し振り。」






あの色濃い緑を思い出す。




むせかえるほどの十津川の緑を。





泣きだしそうなほど、時折帰りたいと願うあの風景。






竹原、滋子。


十津川の豪族、竹原の娘。



私がこちらの時代へ来たときに、お世話になった家の娘。



真白くんも、一時期お世話になっていたこともある。






楽しかった、あの十津川。



ミドリノクニ。






本当ならば、彼の側室に上がるのは、しげちゃんだった。




歴史が歪まなければ、私がこの時代に存在しなければ、



今ここにいるのはしげちゃんだった。






「ど、どうして北畠にいるの?」





尋ねると、しげちゃんは笑う。





「私にもわからないわよ。ただ、ひとつ言えることがあるの。」





「え?」





首を傾げると、しげちゃんは形のいい口をにっこり開いて言った。







「私、十津川を出たのよ。朔ちゃんと一緒に。」






「ええっ?!」




思わず瞳を際限一杯まで見開く。



しげちゃんは本気で驚いた私を見て、満足そうに笑った。





「そ、それって・・・それって、家を飛び出したってこと?」




「そう!!結局ね、朔ちゃんと逃げちゃった。」






駆け落ち。




初めて会った時、私のせいで断念したって言ってた駆け落ち。




よ、よくやったなあ。




すごいと思って、ただ呆ける。



さすが、しげちゃんだ。





サバサバしていて、でも情熱的で、そう言うところすごく好き。





その性格に、何度も助けられた。



何度も。

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