第50話

「失礼いたします、顕家様。」





さっと、御簾が上がる。



智久さんが御簾を上げていた。




その向こうに見えた顔に目を見張る。






見慣れた顔。



懐かしい顔。




唐突に息ができなくなるような苦しさが全身に走る。





あまりに驚いて声が出なかった。




ただただ、彼女の顔を見つめる。






「仰せのとおり、お連れ致しました。」




智久さんはにっこり笑う。




「ありがとう。智久は本当に仕事が早くて助かるよ。下がっていいよ。」



「はい、何かありましたらすぐに。」




すっと智久さんは立ち上がって、後には私と真白くんとその人だけが残される。



まだ驚いた顔をしている私を見て、その子はにっこり笑った。





あの猫目を際限なく歪ませて。






「お久しぶりに存じます。雛鶴姫様。」






そう言ったよそよそしい声に、思わず笑う。



やめてよ、と思って。






「ようやく笑った。お化けを見たような顔してたわ。」






にやにやと意地悪く笑う。





「だって、本気で驚いたのよ。」



「私だって、驚いたわ。顕家様からお呼出しなんて、畏れ多くて殺されるかと思った。」



「やめてよ。そんな言葉をその口から聞いたら俺が死ぬ。さんざんいじめてくれたよね?」




真白くんがため息を吐いた。





「嫌だ。いつの話よ。もう忘れたほうがいいわよ。」





ケラケラと、笑う。


寸分違わぬその姿で。




ううん、少し大人びた。



もっと綺麗になった。

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