第49話

「・・・書簡、書いた?」





真白くんは私を見ずに呟いた。



大塔宮様への、書簡。





「書いたわ・・・朝、智久さんに渡した。」



「そう。」




ただ一言、それだけ言って、私と真白くんの視線は合うことはない。



互いに、同じようにその鶸色をただただ瞳に映す。




無言で。






「・・・そろそろかな。」





真白くんはおもむろに呟いた。



え?と思って、顔を向ける。





「姫付きの女官。早く付けなきゃ。」





「女官?」





女官って、あれよね。



身の回りのことをいろいろとやってくれる女の人よね?




確かに、京の作法とか全くわからないからいてくれれば助かる。





でも今まで、正直あまり見たことがない。



十津川にいた時も、金剛山にいた時も、いたことがなかったし。




それに、北畠に来てからも全然女の人を見ない。





「・・・俺の傍には女官は置かないから見てないと思うけど。」





真白くんは吐き捨てるようにそう言った。




「どうして?」




尋ねると、真白くんは眉を歪めた。



滲み出るのは、嫌悪感。




しまった!と思う。






「・・・女官なんか傍に置いたら、いろいろと煩わしいんだよ。」







少し怒った口調で真白くんはそっぽを向いたまま言った。



恐らく、言い寄られて仕方ないとかそういうことがあったんだと思う。




地雷を踏んだかなと思って、背筋が少し凍った。






「そ、そうね。智久さんがいればいろいろとやってくれるものね。」




「癪だけどね。」





真白くんは溜息を吐いた。



その姿からはさっきまでの棘はない。



危なかったわ、と思って胸を撫で下ろす。




その時、御簾の向こうで声が上がった。

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