第48話

「・・・鎌倉殿が崩壊した?」






呟くと、真白くんが頷いた。



にこりともせずに。




一応、宮方として働いていたのだから、少しくらい喜んだっていいと思うのに。





「うん。皐月の二十二日に。北条高時が一族郎党を従えて切腹して死んだらしい。鎌倉殿は無くなったんだ。」





鎌倉幕府の滅亡。





少し、苦い顔になった。



一つの時代が終わったんだと、頬を撫でる熱を持った風を感じながら思った。





敵味方関係なくいろいろな人たちの、思惑や夢や理想が入り乱れて、そうやって歴史は動いて行く。






私も最早、その歯車の一つになっている。




きっと、大和も。







始まりは21世紀の現代だったけれど、私は今、ここで700年前の歴史の一つになっている。



けれど、それは現代で生きていた時だってそうだった。




現代の歴史の一つの歯車だった。





決して英雄だけで歴史が進んでいくわけでもなく、歴史に名も残らない人たちだって、精一杯歴史を動かしていく。






そっと、瞳を閉じた。



700年前の日本も、


700年後の日本も、




根底に流れるものは同じなのだと思い知る。





私たちは何も変わりのない、人間なのだから。







「ああ、夏が来る。」





真白くんは、庭を見つめてそう言った。



四季が巡るのも、人を愛することも、どの時代も何も変わりはしない。




どちらの世界も、同じ。






「そうね。夏の若葉が瑞々しいわ。」





弾けるように光る、庭の緑が瞳に眩しい。





「・・・鶸色だ。」





真白くんは微笑んでそう言った。





「ひわいろ?」




「そう。小鳥のことを鶸って言うんだけど、その羽根の色。」





そう言われて、瞳を細めて庭に戻す。



小鳥の羽根の色。




若々しい、黄緑色。





生まれたての生命の色。






まだどこかしら初々しい、真白くんに似あいそうな色。

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