第47話

「・・・そっと、見守ってあげてください。」






その唇から落ちた言葉は意外なものだった。



見守る?



それは・・・。





「どういうこと?」






「・・・日野家の姫君が、顕家様をお慕いしております。顕家様は貴女様を想っているせいで頑なに拒否されておりますが、御婚姻のお話しも出ております。」







御、婚姻。



つまり、結婚。





驚いた。



目を見張った。





でも、ああ、そうかと思う。



この時代、真白くんほどの家柄の人に、恋愛結婚なんて自由はない。




例え真白くんが頑なに拒否していようと、例えば親房様の一存で決まってしまうことなのかもしれない。







「・・・露姫とおっしゃいます。とても可憐な姫君でございます。顕家様にふさわしい家柄と美貌の姫君。」







露姫様。



思い出すのは、あの日十津川で見た露草色の空。




刹那の色。






「姫様から、顕家様におっしゃっていただきたい。」



「え?」





「すぐにではなくても結構です。今すぐに、という話しではございませんから。」






首を傾げる。



智久さんが何を言おうとしているか理解できなくて。





ううん、理解していたけれど、この口で言えるかどうか不安だったから理解しないようにしている。






「姫様から、露姫様と御結婚するように、顕家様におっしゃっていただきたい。」







やっぱり、と思う。



じわりと胸の内に寂しさが巣食う。





こんな感情、巣食ってはダメだと思うのに。






「そうすれば、顕家様も諦めて御承諾するでしょう。」






諦めて。



私から、言わなければ意味がないということかと思う。





そうか、と小さく思った。






「おっしゃって、いただけますでしょうか?」





幸せに、なってほしいと思う。



誰よりも、誰よりも幸せに。





そう思うのは、紛れもなく真実。






「・・・ええ。私から顕家様に申し上げます。」







顕家様に。




寂しさが、胸の内を覆い尽くすように増殖する。





「・・・お願いします。」





智久さんがふっと笑った。



緊迫した空気が崩れたと思うのに、苦しくて、たまらなかった。





涙が、滲むくらいに。

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