第46話

「私、初めて見ました。」





突然のその言葉に、目を見張る。



怒られるんじゃ、ないのかしら?





「私は幼い頃から顕家様にお仕えしております。それこそもう十何年も。」





怒るようには感じられなかったけれど、その口調が淡々としている。



私を見つめるその瞳は、何も揺らぐことはない。







「・・・顕家様が、あんなにも楽しそうに笑う姿、私初めて見ました。」








はっと息を飲む。



あんなにも、楽しそうに笑う姿?





真白くんが時折さっきみたいに無邪気に笑う姿を私は知っている。






知っている、それは。





くらりと世界が歪む。



あの唐紅が目に痛い。







「想いを遂げることのできない恋ほど、お辛いものはないと、貴女は存じ上げていらっしゃいますか?」








想いを、遂げることのできない恋。



叶うことのない、恋。






「先ほどだって、本当は自分がその御子の父君だと言いたかったはずです。例え、嘘だとしても。」





唇を、ぎゅっと噛んだ。



揺らいでいることを悟られたくなくて、抗う。




このどうしようもない切なさが暴走するのを、何とか封じ込めようとする。






「嘘だとしても、そんな単純なことで救われたりするのです。」






智久さんは、決して感情的にはならない。



きっとその胸の内には、私のことを怒りたい気持ちでいっぱいなのかもしれない。




真白くんに甘えて、すがっている私のことを。






「・・・わ、私は、一体何をどうすればいいの?」






駄目。



言葉が崩れる。




崩壊する。






智久さんは私から瞳を外して、じっと正面を見つめた。




その姿を、私も同じようにじっと見つめる。





答えがあるのならば、知りたい。






どうしたらいいか助言してくれる人がいるのならばすがりたい。






困らせているのはわかった。



けれど、止まらない。

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