第44話

「・・・もうすでに、親房様と真白くんと智久さんの間ではそういうことにしようと決めていたのね?」





尋ねると、真白くんは頷いた。




「そうだよ。女官が来る前に決めた。」



「・・・別に私に異論はないわ。」




最善だと、思う。




偽装だとしてもこのお腹の子が、真白君の――北畠顕家様の御子だとは決して言えない。




真白くんの将来に傷が付く。



だから、側近の智久さんの子だと。




「それが、最善だと思うわ。けれど智久さんは大丈夫なの?貴方の名に泥を塗ることにならないかしら?」




迷惑をかけることになったら、どうしよう。



智久さんは笑ったまま首を横に振った。






「大丈夫ですよ、姫。このような大役光栄でございます。私はまだ妻帯しておりませんし、決まった姫君がいて通っているわけでもございませんから。」





「こいつはいつもふらふらいろんな女のところに行ってるんだよ。」






真白くんが思い切り眉を歪めてそんな言葉を言い放つ。



何か聞いたことのあるようなセリフよね。




そうまるで・・・。





「東湖さんにそっくりね。」





そう言って笑うと、真白くんは再びあからさまに眉を歪めた。





「東湖よりはまだ智久のほうがいいよ。」




「東湖様とは、隆貞様のことでございますか。宮中の光源氏と名高いあの方と似ているなどと光栄でございますよ。まあ私はあの御方よりは節操はあると自負しているつもりですが。」





それを聞いて、ん?と思う。




この時代って確かにエロが蔓延しているって言うか、どの女と関係を持とうが非難されるようなことじゃない。




貞淑だとか純潔だとかそんな美しい言葉が美徳とされた時代じゃない。





そうか。これが普通なんだ、と突然理解する。






ふらふらいろんな女の人の元を渡り歩いていようと、皆やってること。



ごく普通なこと。






「皆が皆こいつみたいなのばっかりだと思わないでよ。」







真白くんが私の考えていたことを見透かして呆れたようにそう言った。




違うとしても、多いとは思う。



最高なのか最低な時代なのか、判断は私にはできないけれど。





バレた?と思って苦笑いすると、真白くんは笑った。





楽しそうに。



ケラケラと。

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