第三章 鶸色

ご懐妊

第42話

■■■■








「おめでとうございます。ご懐妊されております。」








今日の朝から北畠に来てくれていた女官さんは、そう言ってにっこり笑った。




今まで何度もいろんな人のお産を手伝ってきたのだそうだ。




現代で言えば助産師さんのような人だと思う。





彼女の言葉を聞いて、ほっと息を吐く。





やっぱり、と思って安心したのと、



この時代で子供を産むということの怖さが、同時に襲ってきた。






「恐らく、四か月ほどかと。」





「よかった!じゃあえっと霜月か師走ごろだね!暑い時に産むよりも寒いほうがまだいいでしょ!ははっ!よかった!」






真白くんは、本当に嬉しそうにはしゃいで声を上げた。



こっちが驚いてしまうくらいに。





にこにこ笑って、心の底から喜んでいる。






それを見て、女官さんは訝しげに真白くんを見つめた。






「・・・もしや、顕家様と姫様の御子様でございますか?」





「えっ?!」






真白くんは驚いたのか声を上げて、固まった。



みるみるその頬が赤くなる。




逆に私は嘘みたいに血の気が引いていくのを感じていた。






「ち、違うよ!!俺の子じゃなくて、智久の子だ!」







真白くんは抗って叫んだ。



くらりと世界が歪むのを感じる。




そんな私の肩を抱きとめて、智久さんはにっこり微笑んだ。






「そうでございますよ。私の子なのですよ。ね、姫っ。」





ね、姫。のところに、何か抗えない強さを感じて思わず頷く。




「そ、そうなの。この子の父親は智久さんです。」




咄嗟に笑顔を作ったけれど、引きつっているのがわかる位、露骨な嘘だった。





「そうですか。智久様も、もうそのようなお年頃ですものね。」





ふふ、と笑って、お医者様は立ち上がる。


よかった、バレていないみたい。





「では、私はこれで。7日に一度はお加減を見に参ります。」





「あ、ありがとう。待ってるよ。」






真白くんも引きつった笑顔を女官さんに向ける。



御簾が降りて、足音が遠くへ消えていく。




何も聞こえなくなるまで、私たちは黙って声を押し殺していた。

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