第41話

「・・・高氏を鎌倉殿から寝返らせたのも、私。高氏に敵対する意思はございませぬ。」



「し、しかし!」





「・・・高氏が、寝返ったからこそ、先の戦は終結した、そうでございましょう?正しい未来を望むために高氏を使ったのです。」





「それは確かにそうだが・・・。」




疑っているのか、後醍醐天皇はその語尾を揺らす。





「・・・大丈夫でございますよ。高氏が天下を狙っているなどと滅相もございません。あの男は、私の忠実な下僕。」





にいっと笑って嘘を吐く。



高氏は、天下を狙っている。


けれど。





「私の忠実な下僕であると言うことは、主上の忠実な下僕でもございます。私の望んでいる正しい未来は、主上の手の内にあるのですから。」






その、手の内に。



騙せ、と強く思う。




後醍醐天皇は一度瞳を揺らして俺を見据えた。


俺を、強い瞳でじっと。



それを見て、大丈夫疑っていないと確信する。






「・・・とにかく私は高氏の元に戻ります。京で私をお召しになる場合は、高氏の元へ。」





「・・・私の傍にいないのか?」






尋ねた後醍醐天皇を見て、深く微笑む。



もう、俺から離れるのが怖い?






「・・・傍に控えさせていただくよりも、外にいたほうが全体像が見えると思っております。今はもう、ほんのほころびも、ほんの欠落も許されない緊迫した状況でございます。私は京へ戻り、先にいろいろと手を打っておかなければ。」






正しい未来を。



正しい歴史を。





それを望むために俺は今ここに存在する。






「・・・敵は足利高氏ではございませぬ。」





深い紫の直衣がゆらりと揺れる。



それを着るのは大塔宮様ではなく、廉子様の御子。









「敵は、大塔宮様であることをお忘れなく。」










一度深くひれ伏して、その場から立ちあがって御簾を上げる。






「大和!」




上げた時にそんな声が背を叩く。



振り返ると、廉子様が俺をじっと見つめていた。







「京で会おうぞ。絶対に、私は私の子を帝位に就ける。」








それを聞いて深く微笑んで一度頷く。



女と言うものは、本当に手段を選ばない。





恐ろしいイキモノだと思って、せせら笑った。

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