第38話
「けれど、大塔宮様はお年頃から言っても、その人気から言っても、主上の後継にふさわしく存じます。」
柔く、微笑む。
張りつめた糸の上で遊ぶように、廉子様を挑発する。
廉子様は案の定、俺を一度ギロリと睨みつける。
「主上の望む、親政に多大なる貢献をしてくださいますでしょう。」
本当に、後醍醐天皇が大塔宮様のことをもっと重んじていれば、
その警告に耳を貸していれば、
後醍醐天皇の覇道は長く続いたかもしれない。
ただの、推測論に過ぎないけれど。
「主上。」
俺の声を遮るように、廉子様は言葉を落とした。
いてもたってもいられないように。
「一体どう思っているのか教えてくだされ。私の子を帝位にと何度も申し上げたではないか。」
じろりと、廉子様は後醍醐帝を睨みつける。
「元々、大塔宮など、どうでもいい皇子の一人であったではないか。だから幼い頃から比叡山にほったらかしてきたのではないのか?」
「・・・廉子。」
困ったように、後醍醐帝は眉を歪める。
この国の王に、文句を言えるのは、ただ一人だけ。
そのご寵姫の阿野廉子様だけ。
いいように操られているのは、すぐにわかった。
女に溺れる皇帝が、見事に国を繁栄させた例なんてほとんどない。
真の傾国の姫君は、誰なのか。
阿野廉子様か、
それとも、姉ちゃんか。
そんなことを考えて、胸の内で嘲笑った。
「も、護良は確かに良くやってくれている。ただ、護良は一度出家しておる。僧籍に一度でも入った者が、帝位に就くことなどありえぬ。」
「そのようなこと、主上が認めれば簡単に覆される!」
「だ、だがな・・・。」
しどろもどろだな。
後醍醐天皇が、次第にかわいそうになってくる。
あんなにも、威厳を持っていて、ただ者ではないと思わせる雰囲気をかもしだしていたのに、廉子様にかかったら虎がただの猫になる。
女って本当に怖いな。
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