敵の姿
第37話
「邪魔じゃのう。」
廉子様は、淡々とそう言った。
笑いもせず、ただ俺をじっと見つめて。
一瞬、俺のことかと思って背筋が凍る。
けれど、すぐに違うと気付く。
次第に廉子様のその眼尻が垂れるのを見て、俺ではないと確信する。
「邪魔じゃ。あの男。そなたの言う通り、じゃ、ま。」
ふふっとその声に笑い声を乗せる。
邪魔。
俺の頬も次第にゆるゆると上がっていく。
「大塔宮を、蹴落とせるものならば、蹴落としたいのう。」
蹴り落とせるものならば。
無邪気に笑って言った姿を見て、楽しくてしょうがなくなる。
「・・・そして、貴女様の御子が帝位につく。それが正しい未来にございます。」
正しい、未来。
今のところ俺は、嘘は言ってないよ?
なんにも。
「・・・それは、誠か?」
後醍醐天皇は、呟くように言った。
今まで、何も言わずに俺と廉子様のやりとりを聞いていただけだったのに。
「・・・はい。真実にございます。私の見えている未来。」
歴史として残っている未来。
「それとも、大塔宮様に帝位をと望んでいらっしゃいましたか?」
言葉にした瞬間、凍てつく空気。
廉子様が露骨に、その気を棘のあるものにした。
「大塔宮様は、確かにこの戦を通して民衆や宮中から絶大なる人気を得ております。一部では『東宮』として扱っていらっしゃるところもございます。」
「何が、東宮じゃ。」
吐き捨てるように廉子様が言った。
東宮は皇太子の地位。
次の帝を約束された地位。
引き出せ、と思う。
本音を、もっと。
混乱を、もっと。
もっと、面白くするために。
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