第34話

かわいそうに。






そう思って、ふっと声を漏らして笑う。





700年後の誰もが、それを知ることはない。





太平記から瞳を離して、史実だけを追って行けばわかるかもしれないけれど。



けれどどう足掻こうと、ただの愚かな皇子として歴史に残る。







残念だけど、大塔宮様がどんなに素晴らしい一手を差そうと、




俺がさらに上の一手を差す。







俺は歴史を知っているのだから当然と言えば当然だけれど。








播磨、か。



播磨は、則祐の国。




則祐、元気にしているかな。




会いたい、と思う。






俺と真白と則祐と、三人で過ごした、


あんなに楽しかった日々はもう戻らないけれど。




それでも。





「今日はここまでにして、そこの神社で休むぞ。」





長年はそれだけ言って、口をつぐむ。



あともう少しで平野に出れそうなのに。





もう、25日か。




次の一手に出るか。






「ねえ、長年殿。」



「何だ?」





露骨に眉を歪めた長年を見て、思わず笑う。






「・・・阿野、廉子様に拝謁したいんだけど。」




「なっ!!!」






阿野、廉子。



あのやすこ。





後醍醐天皇のご寵姫。






妃の数は多いけれど、後醍醐天皇は阿野廉子様を一番寵愛している。





天皇が配流された隠岐にまでついて行った、ただ一人のご寵姫。



だから今も、一緒に行動している。





「大丈夫。できれば後醍醐帝もご一緒に。別に俺、この間の芋虫状態でも構わないからさ。ね?後醍醐帝に伝えてよ。」





傍に置いてもらうことを許してもらえたけれど、それでも名和長年を介さないと、俺は後醍醐天皇にも会えることはない。



まだまだと言ったところか。





「わ、わかった。駄目だと言われたら、それまでだぞ?」




「わかってるよ。宜しく。」






そう言うと、長年は渋々後醍醐天皇の元へ駆けて行った。




次の札は慎重に切らないと。



順番を間違えると大事になる。






ああ、また面白くなってきた。



このギリギリの緊迫感が首を絞める。





その苦しさが、ちょうどいいのかもしれない。






俺はまぎれもなくここで生きていると、理解できて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る