第33話

「・・・大塔宮様のさしがね、でしょ。」






呟くように言葉を落とす。




護良親王の、さしがね。




戦が終わったと言うのに、今もまだ、綿密に張り巡らされた糸を見る。






大塔宮様が張った、蜘蛛の糸のような緊迫したものが、世界に張り巡らされている。






「・・・日本海側を通れば、宮津や綾部を通る。宮津も綾部も、足利高氏の所領だ。」





高氏の、領地。



そこを通ると言うことは、後醍醐天皇はわざわざ高氏の手の内に滑り込んでくることになる。





そこでほんの少し力を込めて手を握れば、後醍醐帝はそのまま潰れる。



もしくはそのまま籠の鳥にしたら、それこそ誰も高氏に手を出せなくなる。






大塔宮様はそれを警戒した。






京都へまっすぐに向かうのではなく、一度南下して播磨を通るのも、高氏を警戒しているから。






その背後にいる俺を、警戒しているから。






播磨を守護しているのは、則祐の父親、赤松則村。



紛れもなく宮方だし、瀬戸内海の豪族たちも、宮方だ。






「わかっているなら、問うな。」





長年はそう言って、顔をそむけた。



大分嫌われているなと思って、薄く笑う。




上等だ、と思って。






後醍醐天皇は、ずっと京へ帰りたがっていた。





船上山にいる時も、ままならない戦況に業を煮やして、何度も自ら京へ出ると何度も言っていた。



けれど、六波羅探題が壊滅してから、船上山を出るまでに9日かかっている。





それは恐らく、大塔宮様がどこの道を通るか考えていたからだろう。






本当に、面白いくらいに警戒している。






そしてそれに見合った力量で返してくる大塔宮様は見事だと思う。




歴史も、未来も知らないのに。







知っている俺に対抗してくるように、次の一手を指すその手は本物だと思う。



その才覚や手腕は、真実だと思う。

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