第25話

「・・・誰だ?」





二・三人後ろから、声がした。



馬に乗っている人を見て、こいつが名和長年だと気付く。




恐らく、歳は40代初めくらいだと思う。



精悍な体つきと、蓄えた髭が、その双眸をさらに光らせているような気がする。





列が止まる。



名和長年は、馬から降りた。





「危ないですぞ、殿。」



「なに、子供ではないか。」





にこにこと笑って、名和長年は俺のほうまで歩いてくる。



雨がその肩をさらに叩くのも気にせずに。





人当たりはすごくいいと思う。



けれどさっき見たあの一瞬の瞳の鋭さは、見過ごせない。






「どうしたのだ。何故俺の名を知っている?」







俺の前に立って、長年はにっこり笑った。



その顔を見て、この男は根っからの商人なのだと理解する。






「天が・・・。」



「え?」






「天が俺に、全てを見せてくれたから。」







にいっと音もなく笑う。


長年は一瞬で身構えた。





「あんたの過去も未来も、俺は知っているから。」






一瞬で、緊張の糸が張り巡らされたのを知る。



頬を濡らす雨が、凍てつくのを感じた。





「ど、どういうことだ?」






慎重に、俺を探ろうとする。



じっくりと、この存在の是非を問うように。





それを感じて、また深く笑った。






「俺は、桜井大和。後醍醐帝にお会いしたい。この力を、帝のために貸してあげるよ。」







もっと面白く、するために。



絶望と、混沌がひしめく世界に、してあげるから。

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