侵食

第24話

雨が、さらに緑を色濃くこの目に焼き付ける。



景色が霞んで滲んで、土が香る。





そんな中、ただ一人待っていた。





その時が来るのを、淡々と。







京を出てから、三日経った。




元弘三年、五月二十二日。


1333年、5月22日。




ただし旧暦だから、現代で考えれば、1333年の6月。




もう、夏が近い。




蒸す空気が、山の中だからかさらに強くて嫌になる。




じとじとと湿気が肌にまとわりついて、イライラする。




手の甲で頬を濡らす雨をぬぐった時に声が上がった。






「誰だ?!」





突然そんな声が、背を叩く。



振り返ると、頬が自然と上がる。




望んだもの。





さあ、幕が上がる。






どこまでいけるか、わからないけれど。








立っていたのは、兵士だった。



槍の先がこちらに向いている。



その銀の先も雨が落ちて、鈍く光る。





「・・・名和、長年殿?」





呟く。



なわ、ながとし。




隠岐から脱出した後醍醐天皇を助けた、伯耆の国――現代の鳥取県中部から西部地方、の、海運業で身を立てた武将。




後醍醐天皇を船上山にお迎えした人。





今、後醍醐天皇は、六波羅探題が崩壊したのを聞いて、船上山を出て京へ向かっている。





すでに後醍醐天皇に見染められて、側近に加わっていた名和長年は、伯耆の国を出て、一緒に京へ向かっている。




帝の行幸の先陣を務めているのは、確か名和殿。




歴史が歴史どおりであれば。

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